これまでのゼロワンをふり返って
仮面ライダーゼロワン第2章である、『ZAIA編もしくはお仕事勝負編』が終わりました。そして一昨日。4月5日からは、『最終章』と銘打ちクライマックスへ向けて動き出しました。
第2章が幕を閉じたこのタイミングで、仮面ライダーゼロワンを観ていて思うことを綴っておこうと思います。
ヒューマギア=ロボット→道具→?
あえて、私は上記のように見出しをつけましたがどういうことかというと、
1話~16話までの「滅亡迅雷.net」編では、少子高齢化による人手不足解消などのため、今や人々の生活や仕事。総じて社会になくてはならない、新時代のパートナーとして、
「人間が今まで行っていた仕事や仕事場にヒューマギアが溶け込んだ世界」と、様々な観点からみたそれに対する人間の苦悩。そしてまたヒューマギアの苦悩(=シンギュラリティ)について描き、お互いがパートナーとして認められるまでの過程を中心に描きつつ、一方で、”人類こそ、この地球上で絶滅すべき愚かな種である”というアークの意思の下に人類滅亡を掲げ、彼らヒューマギア。とりわけシンギュラリティに達しつつある個体を狙ってマギア(怪人)化させ、破壊活動を仕掛けていたテロリスト・ヒューマギア達との戦いが物語の中心でした。
つまり簡単にまとめると、
『人間に悪意をもったヒューマギア(ロボット)VSそれに抗う正義の人間(仮面ライダー)』という図式です。
その中で各々登場人物のヒューマギアやそれら近代技術に対しての考え方や、各人物の生い立ち・環境・立場の違いによる、行動理念・思考の差異 というものが描かれていたわけです。
ここでは、ヒューマギアは「道具」だ。という刃の発言に代表されるように、そこまでハッキリとは言っていなくとも、「殺戮マシン」(不破)、「夢のマシン」(或人)のようにそれぞれ考え方は違っても、どこかで「人間 と私たちの生活に溶け込んだ(溶け込みつつある)マシン」というように、ヒトとは似て非なる存在として線引きしているのは、誰を取っても確かだった。それに対して「我々は人間の奴隷ではない。我々こそが、この星の主だ」というのが相対する「滅亡迅雷.net」、ひいては衛星アークの考え=主張だったわけです。
こうして両者の激しい戦いの末、人類が「滅亡迅雷.net」を壊滅させ、一度は勝利を手にしました。しかし戦いの終盤、衛星アークの機能は完全復活を果たし、現在のアークを作った元凶ともいえるのが、他でもない”人間の”天津垓であったりと。彼らは本当に悪 だったのか?彼らもまた、悪意や欲といった人間の負の感情に翻弄させられたある意味での被害者ではなかったのか?このような疑問を残したまま、第2章へ突入していきます。先に述べておきますが、第1章の1話1話の積み重ねによる各人物の考え方や心境の変化。そして第2章から本格的に登場する、ZAIA エンタープライズジャパン代表取締役社長、天津垓の登場を筆頭に物語は大きくかき混ぜられていきます。
その中でそれまでは、「サポートロボット(マシン)」としての描写が濃かったヒューマギアが人間の「道具」として見られる・扱われる描写に変わっていきます。
刃のこの考え方も、上司である垓によるものが大きかったわけですね。
白熱の『お仕事5番勝負』。~明らかになる人間の道具化とそれに見るID2020の懸念~
つづく第2章。年明けからの17~29話では、『お仕事5番勝負』と題して今までよりもよりダイレクトに、上述したことに加え、さらにもう一歩踏み込んで「人間とヒューマギアでは仕事のエキスパートとしてどちらがより優れているのか?」を描いてきました。
1クール。3ヶ月かけてじっくりと展開されたので詳細は割愛しますが、その対決内容が
お仕事5番勝負のお題は天津が決めているのだが、それによってストーリーでピックアップされるのは美的センス、幸福の定義、善悪の判断、人命の救助といずれも人工知能の苦手分野とされているものとなっているのが興味深い。また、第21話での彼の行動は、法律をテーマにしている事も相まってヒューマギア(人工知能)に人権は存在するのかという問題を間接的に視聴者へ投げかける事となった。
以下のように人間の間でもその扱いや判断・定義をめぐって意見の割れるジャンルを設定していたこともあり、この3ヶ月は観ていて特に考えさせられることが多かったですね。
その中でも私が特に印象的だったのが、かつての「滅亡迅雷.net」メンバーであった迅の謎だらけにして突然の復活や、不破や刃が変身に使用しているA.I.M.Sショットライザーの使用には、予め脳に人工知能チップを埋め込むことが条件であることが明かされ、さらに第2章冒頭から暗躍していた「滅亡迅雷.net」最後の1人とされていた謎の人物の正体が、A.I.M.Sショットライザー使用のため、「滅亡迅雷.net」の亡のチップを埋め込まれた不破だったことが判明するなど(正確にはそのチップを垓や迅がハッキングしたことによるもの)衝撃に次ぐ衝撃で、特にラスト3話ほどは息つく暇もないぐらいでしたが、同時に『脳に埋め込まれたチップを何者かに操られ、人格そのものをハッキング』というのは、とても考えさせられました。
というのも、これは特撮ドラマだから…などではなく、
現実問題として、十分に起こり得る一つの可能性だからです。
今、発展途上の国の人たちが例えば、薬の飲み忘れまたは飲みすぎにより体調に変化はないか?医師が管理・アドバイスするため。であったり、例えば、出生登録や教育、社会福祉といったサービス普及のための人道的なプロジェクト。の実用化を目指して、マイクロソフト社はじめ、複数のIT企業がこれに参加しているというのです。(ID2020)
マイクロチップ埋め込みが義務付けとなる日 - trendswatcher.net
そういうとよく聞こえますが、もしこれが悪用されるとどうでしょう?
今まで人の個人情報を盗むといってもせいぜいというとアレですが、それでもウイルスか何かを仕込むのは対象”物”が限度であり、それを捨てたり新しいパソコン等に変えたり、あるいはアンチウイルスソフトなんかをインストールして対策すればなんとかなっていますが、人間にチップを埋め込むとなればそうはいきません。攻撃・破壊の対象が個人個人の内蔵チップに向けられ、それをハッキングなどということになれば、先ほどの不破とさほど変わらないことが、現実で起こってしまう という事態になりかねません。
物語中でも垓が刃や不破に「君たち二人は、はじめから私の”道具”だったんだよ」と高らかに言い切っていましたが、人間まるごと一人が、ちがう誰かの”道具”になってしまい、人権などどこへやら なんてことにも…。
ヒューマギアは、ラーニングによってシンギュラリティに達し、感情を獲得するのに対し、人間は同じ人工知能、同じテクノロジーによって身体も心も支配され、誰かの道具以下になり下がり、もはや自分の意思決定や思考によって動いているのか。どこからが誰かにコントロールされ、どこまでが自分なのか?自己を肯定できず、そのアイデンティティすら危うい…。
ついには人間まで”道具”扱いされてしまうとは…。 なんだかすごく、皮肉です。
第2の『デイブレイクタウン』は静岡県裾野市!? デイブレイクの悲劇を繰り返さないために…
また、第1章では主に「滅亡迅雷.net」のメンバーのアジトとして使われ、第2章以降、刃や垓はじめ、様々な人物も出入りするようになった「デイブレイクタウン」。ここももともとは、ヒューマギアの性能を試験的に運用する『ヒューマギア運用実験都市計画』のために選ばれた街でした。飛電インテリジェンス先代社長、飛電是之助によれば「…その実験は最終段を迎えようとしている。通信衛星を打ち上げればネットワークが完成し、いよいよ全国で実用化できる日が近づいてまいります。以下略」とのこと。
要約すると現在のデイブレイクタウンは、ヒューマギア=人工知能搭載人型ロボの運用とそれらをつなぐ(制御する)衛星ネットワークの稼働実験のために日本政府も参入し、実験が行われ、裏で暗躍していた垓らのせいで衛星アークが暴走し、今に至る というわけです。
これをヒューマギア という言葉を外して考えるとどうでしょう?
考えやすいように、大事な部分を赤字にしてみました。
・人工知能搭載ロボの運用。
・それらを制御・管理する、ネットワークの稼働実験。
我々のくらす現代にもこれと似たようなことが思い当たりませんか…?
トヨタ自動車の豊田章男社長が明らかにした、「あらゆるモノやサービスがつながる実証都市『コネクティッド・シティプロジェクト』。
静岡県裾野市にある、今年度末に閉鎖するトヨタ自動車東日本東富士工場の跡地を使い、『人々が実際に生活をするリアルな環境のもとで』自動運転、ロボット、スマートホーム等などを導入・検証する実証都市を建設する。
トヨタは、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から、この実証都市を『Woven City』(ウーブン・シティ)と名付けたようです。
街で暮らす住民は、人工知能(AI)を使って健康状態をチェックしたりする、トヨタの自動運転EV「e-Palette」も、人やモノの移動のほか、移動用店舗などとして活用するといった運用方法を考えているようです。 これについては、リンクをいくつか貼っておきます。
トヨタが静岡に創る「未来型都市」に映る危機感 | テクノロジー | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
トヨタ、静岡に「新しい街」を建設 自動運転やロボットを実証、2000人が生活 - ITmedia ビジネスオンライン
きちんと、この『ウーブン・シティ』にもAIは登場しますし、あらゆるモノやサービスをつなげるためにも、やはりそれらを制御・管理する、ネットワークは必要不可欠となってくるわけです。こうみるとゼロワンの世界でも、我々が日曜日に毎週観せられているのは、ゼロワン世界での日本全体 ではなく、ヒューマギア自治都市(実験運用都市)とその周辺及びそれに参入・関連する企業や会社間での物語ということになるので、静岡裾野にウーブン・シティなる実証都市が完成すれば、その都市の箱の中で実験、運用をするわけですから、その都市内とその周辺及びそれに参入・関連する企業や会社間でのお話。となり、さほど二つの世界観に違いはなくなるようにも思えます。
考えたくはないことですが、そこでゼロワンの衛星アークのように、街(都市)の運用に欠かせない大基のネットワークにハッキングやなんらかの事態による暴走が起きれば、ロボットは暴走して人を襲うわ、車は制御不能で理性を失うわ、挙句の果てに街ひとつを閉鎖→爆破して事態を治めるとなれば、デイブレイクタウンで巻き起こった悲劇の事故、”デイブレイク”さながらであり、同事故の二の舞になりかねません。
そもそもゼロワンの衛星アークの場合は、垓がアークに人間の悪意や戦争の歴史などを故意にラーニングさせ、人間に敵意を抱くように「意図的に」設定した結果、デイブレイクへとつながってしまいました。ウーブン・シティにも都市全体を制御管理するネットワーク(衛星ではない)やAI自体は登場するのですから、同じようなことが起こらない とは言い切れないのです。
ゼロワンの第2章のみを振り返って記事にするつもりでしたが、結果的に1話~の振り返りになって長文化してしまいました。
仮面ライダーゼロワン制作のプロデューサーである大森敬仁氏の「ゼロワンは子どもや大人関係なく楽しめる作品」の発言通り、私たち大人や、少し大きくなっていろいろ物事を深く考えられる年齢になって観て初めて理解できたり、考えさせられるものが多い見ごたえのある作品なのかな と思います。